朝毎読

-蜂飼耳書評集-

蜂飼耳 著

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朝毎読

定価2,200円(本体2,000円)

発売日2018年10月26日

ISBN978-4-7917-7114-1

読書が私のいまをつくっていく。初の書評集。
本と出会う。身体を言葉が通り過ぎていく。そこで思いがけず残るもの。その言葉の蓄積が自分のいまを形作っているのだと、ある時ふと気がつく。静かに、ときにユーモアや驚きを感じながらつむぎだされた言葉。書評は本と人を繋いでいく。

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【目次】

いまこのときを作る読書

渦巻模様にみる世界の生命循環 鶴岡真弓『ケルトの想像力――歴史・神話・芸術』青土社
理不尽な出来事いかに慈しむか アキール・シャルマ『ファミリー・ライフ』小野正嗣訳、新潮社
読書で生まれる時空越えた共鳴 森内俊雄『道の向こうの道』新潮社
〈戻し訳〉に響く新しい音色 紫式部、アーサー・ウェイリー訳『源氏物語 A・ウェイリー版1』毬矢まりえ、森山恵訳、左右社
積み重なるおかしさ恐ろしさ 田辺青蛙『人魚の石』徳間書店
図像から考える受容史の可能性 及川智早『日本神話はいかに描かれてきたか――近代国家が求めたイメージ』新潮社
心ある出版の姿を伝える 涸沢純平『遅れ時計の詩人――編集工房ノア著者追悼記』編集工房ノア
編集という行為、果敢な挑戦 松岡正剛『擬 MODOKI――「世」あるいは別様の可能性』春秋社
社会的記憶の構築と継承 カルロ・セヴェーリ『キマイラの原理――記憶の人類学』水野千依訳、白水社

interlude * 1 栞を見つける

日本語の「歌」、実作者の目から 佐々木幹郎『中原中也――沈黙の音楽』岩波書店
言葉発する行為、正面に見据え 諏訪哲史『岩塩の女王』新潮社
心に触れる、ひろやかな考察 寺尾紗穂『あのころのパラオをさがして――日本統治下の南洋を生きた人々』集英社
蟹や羊の伝承がいざなう遠い旅 アイリアノス『動物奇譚集1・2』中務哲郎訳、京都大学学術出版会
恋愛? 友情? 友愛? いいえ… 松浦理英子『最愛の子ども』文藝春秋
生の痕跡から掘り起こす記憶 ポール・オースター『冬の日誌』『内面からの報告書』柴田元幸訳、新潮社
子どもの本へのまなざし 藤本朝巳『松居直と絵本づくり』教文館
オオタカと自然の教え ヘレン・マクドナルド『オはオオタカのオ』山川純子訳、白水社
間柄示す、彩り豊かな言葉の橋 アンリ・マティス、ジョルジュ・ルオー、ジャクリーヌ・マンク『マティスとルオー 友情の手紙』後藤新治訳、みすず書房
人間の不可解さを直視する文学 アイザック・B・シンガー『メシュガー』大崎ふみ子訳、吉夏社
魂の交わりと作品への冷徹な目 高橋睦郎『在りし、在らまほしかりし三島由紀夫』平凡社

interlude * 2 〈自由〉の鍵

人生の分岐点、自然な手つきで アリス・マンロー『ジュリエット』小竹由美子訳、新潮社
弾圧された人々の傷ひとつずつ ハン・ガン『少年が来る 新しい韓国の文学15 』井出俊作訳、クオン
音楽への愛情伝える、展開の妙 恩田陸『蜜蜂と遠雷』幻冬社
風変わりな漢文ににじむ人生 門玲子編著『幕末の女医、松岡小鶴1806―73――柳田国男の祖母の生涯とその作品』藤原書店
祝詞から憲法までの言葉の姿 池澤夏樹編『日本語のために 日本文学全集30』河出書房新社
俳人が語る戦争体験 金子兜太『あの夏、兵士だった私96歳、戦争体験者からの警鐘』清流出版
鮎川信夫の詩と批評を見つめる 樋口良澄『鮎川信夫、橋上の詩学』思潮社
虚実の間、捉える言葉を探る 吉増剛造『怪物君』みすず書房、『心に刺青をするように』藤原書店

interlude * 3 絵本のこと

長崎の絵師が切り取る世界 下妻みどり『川原慶賀の「日本」画帳――シーボルトの絵師が描く歳時記』弦書房
長靴をまだはかない猫 ジョヴァン・フランチェスコ・ストラパローラ『愉しき夜――ヨーロッパ最古の昔話集』長野徹訳、平凡社
悪意に操られる記憶と人格 中村文則『私の消滅』文藝春秋
歴史を意識した詩人の多面性 菅野昭正編『大岡信の詩と真実』岩波書店
土地と言葉をめぐる上質な旅 齋藤希史『詩のトポス――人と場所をむすぶ漢詩の力』平凡社
未来の人類、揺らぎに共鳴 川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』講談社
新たな〈発生〉うながす視点 藤井貞和『日本文学源流史』青土社
能楽の根源、乱舞の芸能 沖本幸子『乱舞の中世――白拍子・乱拍子・猿楽』吉川弘文館
「目的や価値の軸」創造する知 吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』集英社

interlude * 4 辞書と目薬の関係

生の断面鮮やか、奇想天外な物語 カレン・ラッセル『レモン畑の吸血鬼』松田青子訳、河出書房新社
文字か形象か、本質捉える挑戦 栗本高行『墨痕――書芸術におけるモダニズムの胎動』森話社
食材も作法も、驚きの変化たどる 石毛直道『日本の食文化史――旧石器時代から現代まで』岩波書店
見えないもの暴く、精神の深層 李承雨『香港パク』金順姫訳、講談社
恋愛よりも深い奇跡的な間柄 川上未映子『あこがれ』新潮社
相互依存の糸、終わりが始まり 青山七恵『繭』新潮社
東アジア視野に文学史問い直す 黒川創『鷗外と漱石のあいだで――日本語の文学が生まれる場所』河出書房新社
脆くはかない人間の生の輝き 小川洋子『琥珀のまたたき』講談社
人生の足元、確かめ拡がる世界 大城立裕『レールの向こう』新潮社
馬と一族の宿命、体感的に描写 河﨑秋子『颶風の王』角川書店
不信と孤独の連鎖を凝視する イーユン・リー『独りでいるより優しくて』篠森ゆりこ訳、河出書房新社

interlude * 5 青いレモン 

人生を支える「優しさ」の記憶 中脇初枝『世界の果てのこどもたち』講談社
実学としての文学を見渡す 荒川洋治『文学の空気のあるところ』中央公論新社
ウィットと軽み、原点を見つめる 谷川俊太郎『詩に就いて』思潮社
老いの時間に渦巻く死と官能 古井由吉『雨の裾』講談社
響き合う人生と都市の回想 呉明益『歩道橋の魔術師』天野健太郎訳、白水社
改竄された「源氏」、「現代」映す物語の妙 古川日出男『女たち三百人の裏切りの書』新潮社
人生で大切なこと、深く見つめた言葉 長田弘『長田弘全詩集』みすず書房
困惑と屈託を味方につけて 色川武大『友は野末に――九つの短篇』新潮社
制度と図式に対抗する小説 田中慎弥『宰相A』新潮社

interlude *6 加納光於の眼

近代詩の周辺を探る 尼ヶ崎彬『近代詩の誕生――軍歌と恋歌』大修館書店
時代を歩む顔 久世光彦『歳月なんてものは』幻戯書房
悪の奥底を見つめる 中村文則『王国』河出書房新社
極限体験と人への思い 竹山博英『プリーモ・レーヴィ――アウシュヴィッツを考えぬいた作家』言叢社
日本社会を映すコピーの言葉 安藤隆ほか編著『日本のコピーベスト500』宣伝会議
詩歌に詠われる生き物たち 小池光『うたの動物記』日本経済新聞出版社
揺さぶり挑発する「言葉」 伊藤比呂美『続・伊藤比呂美詩集』思潮社
上海生まれ、伝統と退廃 池上貞子『張愛玲――愛と生と文学』東方書店
中台史の生き証人 野嶋剛『ふたつの故宮博物院』新潮社
笑いと闇と表情筋 町田康『ゴランノスポン』新潮社
自分なりの速度で生きる 稲葉真弓『半島へ』講談社

interlude * 7 悩みと向き合う詩

切手に見る戦後の日本 内藤陽介『切手百撰――昭和戦後』平凡社
『古事記』神話と変形のプロセス 西條勉『『古事記』神話の謎を解く――かくされた裏面』中央公論新社
「楽」の向こうを見る 山之口貘『山之口貘詩文集』講談社
破綻通し完成する関係 オラフ・オラフソン『ヴァレンタインズ』岩本正恵訳、白水社
近代化支えた女性の声 和田英『富岡日記』みすず書房
外部への無限の広がり 木村大治『括弧の意味論』NTT出版
西洋翻訳文学の変容 高田里惠子『失われたものを数えて︱書物愛憎』河出書房新社
アメリカ生まれの詩人の視点 アーサー・ビナード『亜米利加ニモ負ケズ』日本経済新聞出版社
文法から考える時間の表現 藤井貞和『日本語と時間︱〈時の文法〉をたどる』岩波書店
言葉と遊ぶ授業 柳瀬尚紀『日本語ほど面白いものはない︱邑智小学校六年一組特別授業』新潮社

interlude * 8 光をめぐって

獰猛なまでの美しさ リチャード・ジョーンズ『ナノ・スケール――生物の世界』梶山あゆみ訳、河出書房新社
現実と口承を重ねる旅 津島佑子『黄金の夢の歌』講談社
枯淡とユーモア 森於菟『耄碌寸前』みすず書房
個人の生に起こる奇跡 ウィリアム・トレヴァー『アイルランド・ストーリーズ』栩木伸明訳、国書刊行会
過去と現在のあいだで 南木佳士『先生のあさがお』文藝春秋
ずれから生まれる対話 多和田葉子『尼僧とキューピッドの弓』講談社
詩の顔 導き出す対話 谷川俊太郎/山田馨『ぼくはこうやって詩を書いてきた――谷川俊太郎、詩と人生を語る』ナナロク社

interlude * 9 藤村のいろはかるた

多様な味わい伝える 齋藤希史『漢文スタイル』羽鳥書店
生の開花を映して ボリース・パステルナーク『リュヴェルスの少女時代』工藤正廣訳、未知谷
過去から現在への旅路 柴田元幸『ケンブリッジ・サーカス』スイッチパブリッシング
行き場のない淡い恋情 黒井千次『高く手を振る日』新潮社
夢と寝覚めの感触 古井由吉『やすらい花』新潮社
それでも日々はつづく イーユン・リー『さすらう者たち』篠森ゆりこ訳、河出書房新社
流され転がる日々の果て 平田俊子『スロープ』講談社
生の哀歓に気づく視線 ささめやゆき『十四分の一の月』幻戯書房
喪失と回復を見つめる クレア・キーガン『青い野を歩く』岩本正恵訳、白水社
祭りと旅の歓喜を映して 佐々木幹郎『旅に溺れる』岩波書店

あとがき 

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[著者] 蜂飼耳(はちかい・みみ)
1974年神奈川県生まれ。詩人・作家。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。詩集に『いまにもうるおっていく陣地』(紫陽社、第5回中原中也賞受賞)、『食うものは食われる夜』(思潮社、第56回芸術選奨新人賞受賞)、『隠す葉』(思潮社)、『顔をあらう水』(思潮社、第7回鮎川信夫賞受賞)、『現代詩文庫・蜂飼耳詩集』(思潮社)。小説に『紅水晶』(講談社)、『転身』(集英社)など。文集に『孔雀の羽の目がみてる』(白水社)、『空を引き寄せる石』(白水社)、『秘密のおこない』(毎日新聞社)、『空席日誌』(毎日新聞社)、『おいしそうな草』(岩波書店)。童話集に『のろのろひつじとせかせかひつじ』(理論社)、『クリーニングのももやまです』(理論社)など。絵本に『うきわねこ』(絵/牧野千穂、ブロンズ新社、第59回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞)、『ゆきがふる』(絵/牧野千穂、ブロンズ新社)、『ふくろうのオカリナ』(絵/竹上妙、理論社)など。古典の現代語訳に『虫めづる姫君 堤中納言物語』(光文社古典新訳文庫)、『方丈記』(光文社古典新訳文庫)などがある。