映画のまなざし転移

斎藤環 著

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映画のまなざし転移

定価3,080円(本体2,800円)

発売日2023年2月14日

ISBN978-4-7917-7513-2

精神分析と映画は、なぜこんなにも相性が良いのか。
人物、セリフ、構造……作品のとらえ方のヒントは、精神分析に溢れている。
現代の映画シーンにおける記念碑的な作品群を、ときにやわらかい言葉で、ときに精神分析の言葉で論じた、著者渾身の映画批評の集大成。
映画への欲求を喚起せずにはおかない130章!

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[目次]

はじめに


Ⅰ 映画のまなざし転移100

1 近代・土着・媒介者
2 二つの無限
3 混沌から浮上する追悼と祈り
4 ヒーローはいかに治癒するか
5 映画とは「女の一生」のことである
6 私たちは「希望の国」に生きている
7 おしゃべりな超自我、寡黙なタナトス
8 「承認の物語」は終わらない
9 成熟と“再選択”
10 アメリカ的正義、あるいは“顔”の回避
11 信仰のアレゴリー
12 あの日からの「遺体」に何を学ぶか
13 ジャンゴとリンカーンあるいは“映画”への固執
14 戦闘美少女はすれ違う
15 “幽霊の唯物論”から“映画の唯物論”へ
16 “少女”は“零戦”よりも美しい
17 パシフィック・リムの「失敗の本質」
18 そして父になる
19 危険な「文学」と安全な「映画」
20 禁煙と公共性
21 重力と野心、空気と理想
22 ノスタルジーとしてのヘアスタイル
23 私は亡霊の声を聞いた
24 性関係の存在証明
25 ポリフォニーがもたらす新しい言葉
26 暴力〈と〉暴力、個人〈と〉社会
27 誰が「父」を殺すのか
28 ゴジラと憲法
29 映画が私を見つめ返す
30 裏声の身体性
31 滅びゆく「宙吊り」の美学
32 重力とヒューマニズム
33 抑圧の構造と子どもの領域
34 “喪失”の後にこそ「関係」が残る
35 “価値の恒常性”を試されること
36 「屈辱」と「成長」
37 長い追悼の終わり
38 「愚かしさ」のための文法
39 「存在」はスキャンできない
40 逃げる男、巻き込む女
41 「純粋欲望」の華やぎと空虚
42 贋作者のアウトサイダー
43 「原罪」を巡る実験
44 包摂の不条理
45 幽霊はどこにいる
46 証言としての狂気
47 「発砲禁止地域」のランボー
48 「ないものを与える」ということ
49 視覚から五感を取り戻すために
50 暴力・顔・そして倫理
51 笑いより対話を、禁忌よりも規範を
52 成熟と序破急
53 悲劇に抗うナラティヴの力
54 「片隅」のポリフォニー
55 中上健次の風景
56 福祉と家族のあいだ
57 見える「愛」、見えない「美」
58 感情化する社会に抗して
59 きっとあの地には円盤が飛来している
60 尊厳は祈りでも理想でもない
61 「名を取り戻す」ということ
62 「物語」には時間が必要だ
63 「家族」は「原罪」を緩和するだろうか?
64 「人間の条件」としてのマイノリティ
65 限界のないもの
66 ノーランの三つの時間
67 彼らが「人間」になるとき
68 アニメーションの唯物論
69 不確かさに耐えること
70 差別が生んだ「密室」の惨劇
71 「正義」の断念から、対話がはじまる
72 「政治的正しさ」の有限性
73 思想なく、信念なく、使命なく
74 家族に「絆」は必要だろうか?
75 「負の歴史」といかに向き合うか

76 ゾンビは何を象徴するか
77 「精神医学」とは別の仕方で
78 「顔」は自分の中の他者
79 「多様性」とは別の形で
80 映画は「存在」に奉仕する
81 この視点は誰のものか?
82 春樹を反転させること
83 「ポリコレ」では守れない尊厳
84 「入れ子」が暴く「内なる差別」
85 隣人への善よりはじめよ
86 信仰はいかに鍛えられたか
87 「享楽」殺人者は対話する
88 愛とともに、愛なしで
89 タランティーノのナラティヴ・セラピー
90 「現象としての悪」の触媒
91 家族に「真実」は必要か
92 片隅にこそ宿る「現実」
93 共感のまなざし転移
94 「格差の消費」に抵抗する映画
95 「自立」と「依存」を巡る逆説
96 「裡なる分断」と向き合うこと
97 「弱さの共有」としてのケア
98 息もできない世界
99 断絶と崩壊の思春期
100 希望の共有のために

Ⅱ 読む、映画/その他の映画批評

101 すべての男性が観るべき映画
102 皮膚と鏡像
103 エイリアンにトラウマはない
104 自由こそが治療だ!
105 私たちの未来の死者
106 すべての男は“監督失格”である
107 「世界」を救うために何を差し出すべきか
108 不可視の敵、沈黙のヒーロー
109 ただサラ・スタルジンスキのためでなく
110 「呪い」と「祈り」のはざまで
111 アスペルガー・ヒーローの時代
112 「身体性」の復権
113 踊る母、笑う息子

114 代用品の「悲しみ」
115 果たせなかった約束のために
116 「恋愛童話」の専制に抗して
117 キスのある風景
118 名前のない不思議な現象
119 関係することのエロス
120 脳は「社会」とともにある
121 狂気の種子と「女性」の謎
122 カスパー・ハウザーとは誰か?
123 サブカルチャーとともに大人になること
124 「末期の目」にも似た自意識
125 境界性のミーム、あるいは輪郭と旋律はいかに抵抗したか
126 トラウマ・時間・エントロピー
127 「映画という謎」の分有
128 皮膚の映画、あるいは壊乱するメタ世界
129 「界面」と「他者」
130 トム・クルーズと自己神話化

あとがき

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[著者]斎藤 環(さいとう・たまき)
1961年岩手県生まれ。精神科医。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。爽風会佐々木病院診療部長を経て、現在、筑波大学社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、ラカン派精神分析学。『関係の化学としての文学』(新潮社)で日本病跡学会賞を、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川書店)で角川財団学芸賞を受賞。その他の主な著書に『その世界の猫隅に』『猫はなぜ二次元に対抗できる唯一の三次元なのか』(以上、青土社)、『生き延びるためのラカン』(ちくま文庫)、『中高年ひきこもり』(幻冬舎新書)などがある。