残されたものたちの戦後日本表現史

山本昭宏 著

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残されたものたちの戦後日本表現史

定価2,420円(本体2,200円)

発売日2023年2月25日

ISBN978-4-7917-7538-5

水木しげる、中沢啓治、高畑勲から、こうの史代まで。
戦地から引き揚げたもの、空襲を生きのびたもの、被爆者として生きるもの……。戦争で生き残った表現者たちは個別の方法でそれぞれの経験の物語を作り上げてきた。かれらが描いた戦争・戦後とはいかなるものか。そして、これからの世代はどのように語り残していくべきか。これから先もずっと読まれ、観られ続けるべき作家、作品たちを精緻に読み解く。

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[目次]

はじめに 「残されたもの」としての世界

第1章〈異形〉は語る――水木しげると「傷痍復員兵」
傷痍復員兵による廃墟ビル占拠 戦後社会と「傷痍軍人」 占拠事件の顛末 水木しげるの来歴 トーライ族との出会い 貧しい美大生から水木荘の管理人へ 紙芝居と貸本漫画 「異形なる者の帰還」という主題 貸本戦記漫画でのこだわり 都市と「ルンペン」と鬼太郎 霊・商品・戦死した戦友 悪魔くんの「呪詛」と「革命」 社会変革の夢と現実 国家を「占拠」する子どもたち 石川三四郎との接点 夢想と現実

第2章 植民地主義と「亡霊的」記憶――加藤泰・大島渚・高倉健
「敗戦国の亡霊」 知ってはいるが受け止められない 映画『男の顔は履歴書』 復員兵と朝鮮人の「皇軍兵士」 民族性と敵対性 一九四八年八月という時間 関係の非対称性 亡霊的記憶への「外科手術」 高倉健と映画『ホタル』 異質な特攻隊映画 「イデオロギー過剰」との批判と九〇年代の保守論壇

第3章 回帰する被爆の記憶――中沢啓治の「怒り」のゆくえ
幽霊たちの場所 中沢の来歴と「ゲン」以前 母親の死と激しい怒り 「黒い」シリーズの定型 編集者・長野規の「戦争調査」 「平和」への違和と女性の怒り 「ゲン」の体験と中沢の体験 被爆直後の「見捨て体験」 顔の反復 身代わりの赤ん坊 『はだしのゲン』の現代的意義 歴史と疑似的なトラウマ

第4章 「不条理空間」と「記憶空間」――別役実・大林宣彦
「ヒロシマ」へのふたつのアプローチ ケロイドを見せたがる男 社会化を拒む個性 モデルとしての吉川清 戦後思想批判――磯田光一と吉本隆明 「マクシミリアン博士の微笑」 ケロイドの美しさとは何か? 別役実の「不条理空間」 大林宣彦の「反戦平和」 「記憶空間」と「シネマゲルニカ」 歴史と記憶の館 岡本喜八との接点 ふたつの空間と「居心地の悪さ」

第5章  残された者と共同体――高畑勲の「啓蒙的理性」
『太陽の王子 ホルスの大冒険』と共同体の理想 「民衆的な英雄像」と脱色された「日本」 民衆史の同時性 転機としての『母をたずねて三千里』 『火垂るの墓』における演出と問題意識の乖離 死者のまなざしと「日本人」 〈民族〉と〈抗日〉 思い出のなかの共同体

第6章  経験を持たない者たちの戦争――こうの史代と共感のテクノロジー
現代における被爆の記憶 マンガ『夕凪の街 桜の国』の「さりげなさ」 「共感」のテクノロジー 「さりげなさ」の要因 青年誌というメディア、表現の自主規制 映画『夕凪の街 桜の国』の「リアリティ」 「原爆映画」の系譜から 被爆地蔵の「リアリティ」 メディアの移行にみる継承と断絶 「桜の国」のラストシーンの比較から タイムスリップ演出と「昭和ノスタルジー」ブーム 戦争の語りを紡ぐ
 

おわりに 過去の作品を読むことの意味


あとがき
引用図版一覧

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[著者]山本 昭宏(やまもと・あきひろ)
1984年奈良県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、神戸市外国語大学外国語学部准教授。専門は日本近現代史・メディア文化史・歴史社会学。単著に『核エネルギー言説の戦後史 1945~1960』(人文書院、2012年)、『大江健三郎とその時代』(人文書院、2019年)、『戦後民主主義』(中公新書、2021年)、『原子力の精神史』(集英社新書、2021年)など、編著に『近頃なぜか岡本喜八』(みずき書林、2020年)がある。