「玉音」放送の歴史学

-八月一五日をめぐる権威と権力-

岩田重則 著

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「玉音」放送の歴史学

定価2,640円(本体2,400円)

発売日2023年6月26日

ISBN978-4-7917-7567-5

天皇の大恩か、権力の発動か
日本の近現代史のなかでもっとも有名なラジオ放送。ここで流された昭和天皇の声がアジア太平洋戦争終結を国民に告げた。この放送はなぜ必要だったのか。「御前」会議や原爆にかかわるメディアの報道、当時の人びとの肉声にいたるまでさまざまな文献資料を詳細にひもとくと、明治憲法体制における天皇とはいかなる存在か、そして「玉音」放送とはいったい何だったのかが明らかになる。これまで触れられてこなかった日本近代史の核心に迫る画期的著作。

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[目次]

はじめに
「聖断」と「玉音」放送の権力発動
権威による権力発動の隠蔽
明治維新と、「聖断」と「玉音」放送

第1章 天皇の権威と権力
「玉」(明治天皇)を掌握した薩長討幕派
孝明天皇葬儀に「供奉」しようとした徳川慶喜
「大日本帝国憲法義解」による大日本帝国憲法(明治憲法)の「国体」
「大日本帝国憲法義解」における天皇の権威と権力

第2章 戦争終結派の「国体護持」と昭和天皇「御親政」
戦争終結派のネットワーク
近衞文麿「速かに停戦すべしというのは只々国体護持のためなり」
戦争終結派の「国体護持」至上主義
政治性のない鈴木貫太郎総理大臣と昭和天皇「御親政」
「最近(五月五日ノ二、三日前)御気持ガ変ツタ」
六月二二日、 昭和天皇「成るべく速かに戦争を終結すること」―「聖断」(1)

第3章 皇居「正殿」全焼と「三種の神器」
七月二五日、 昭和天皇「爰に真剣に考へざるべからざるは三種の神器の護持にして」
七月二七日、ポツダム宣言傍受
七月三一日 、昭和天皇「万一の場合には自分が御守りして運命を共にする外ないと思ふ」
皇居炎上(「明治宮殿」全焼)

第4章 「新型爆弾」と「原子爆弾」
八月七日、 情報局部長会議決定「新型爆弾」
八月八日・九日、「残忍」「残虐」「非人道」を強調した「新型爆弾」報道
八月一〇日発表「米機の新型爆弾による攻撃に対する抗議文」
八月一一日からの「新型爆弾」と「原子爆弾」の併存

第5章 ポツダム宣言受諾決定と「皇室は絶対問題也」
八月八日、下村宏国務大臣兼情報局総裁、昭和天皇に「マイク」からの「大号令」の提言
八月八日、下村宏国務大臣兼情報局総裁、昭和天皇に「英米」との直接交渉の提言?
八月一〇日、東郷茂徳外務大臣「皇室は絶対問題也―将来の民族発展の基礎なれば也」
八月一〇日、昭和天皇「外相案を採らる」―「聖断」(2)
昭和天皇独白録「敵が伊勢湾附近に上陸すれば、伊勢熱田両神宮は直ちに敵の制圧下に」

第6章 セットになった「国体護持」と「原子爆弾」
八月一〇日、ポツダム宣言受諾通知「天皇ノ国家統治ノ大権ヲ変更スルノ要求ヲ包含シ居ラザルコト」
八月一一日、新聞の「国体護持」と「原子爆弾」
八月一二日、新聞の「国体護持」と「原子爆弾」
昭和天皇独白録「国体護持が出来なければ、戦争を継続するか」「私は勿論だと答へた」
八月一二日、昭和天皇「先方回答の通りでいゝと思ふ」

第7章 ポツダム宣言受諾「詔書」と「玉音」放送の演出
八月一四日、木戸幸一「御決意の極めて堅きを拝し、恐懼感激す」
八月一四日、昭和天皇「外に別段意見の発言がなければ私の考を述べる」―「聖断」(3)
八月一四日、昭和天皇「私は何時でも「マイク」の前にも立つ」「此際詔書を出す必要もあらう」
八月一四日、下村宏国務大臣兼情報局総裁「朝の配達をのばして玉音放送と同時に正午とすればよい」
八月一五日、ラジオ放送事前通知「国民は一人残らず謹んで玉音を拝しますように」

第8章 ポツダム宣言受諾「詔書」と「内閣告諭号外」を‟読む”
八月一四日午後一一時、『官報号外』「詔書」「敵ハ新ニ残虐ナル爆弾ヲ使用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ」
「国体ノ精華ヲ発揚シ」
八月一四日午後一一時、『官報号外』「内閣告諭号外」「新爆弾ノ用ヒラルルニ至リ」「国体ノ護持ニアリ」
八月一四日午後一一時、外務省発電ポツダム宣言受諾最終通知主語「天皇陛下」
(His Majesty the Emperor)

第9章 ラジオと新聞が誘導する「国体護持」
八月一五日午前四時二〇分頃、木戸内大臣「事件の進行をひそかに観察す」
八月一五日午前一一時、「玉音」放送と同時進行の枢密院会議
八月一五日正午、下村宏国務大臣兼情報局総裁「これよりつつしみて玉音をお送り申します」
八月一五日、「惨害」「残虐」「民族滅亡」と「聖断」「大御心」「国体護持」の大合唱

第10章 新聞が誘導する昭和天皇への懺悔と「国体護持」
八月一五日、架空の物語を創作した新聞①―「二重橋前」の懺悔
八月一五日、架空の物語を創作した新聞②―「宮城前」の懺悔
八月一五日、「玉音」放送予定稿の「国体護持」
八月一六日、表象による懺悔キャンペーン
情報局「国体護持を強調せよ」

第11章 「原子爆弾」報道の全面解禁
八月一五日、新聞二面の「原子爆弾」(「新型爆弾」)
八月一五日、「原子爆弾」(「新型爆弾」)の具体的報道
下村宏国務大臣兼情報局総裁が沈黙した八月一五日
原民喜「もう少し早く戦争が終ってくれたら」、林京子「なして、もっと早う言うてくれん」
「玉音」放送に順応する被爆・被曝地の言説

第12章 情報漏洩とうわさ話拡散
八月七日、高見順「大変な話――聞いた?」
八月九日、高見順「原子爆弾の話が出た。仁丹みたいな粒で、東京がすっ飛ぶ」
東郷茂徳外務大臣「段々に洩れた」・迫水久常内閣書記官長「逐次過般の事態が洩れた」
八月一〇日、高見順「戦争はもうおしまい―」

第13章 「御前」会議とは?
三種類の「御前」会議
大本営政府連絡会議(第一回‐第一一回)
最高戦争指導会議(第一二回‐第一四回)
最高戦争指導会議+閣議合同(第一五回)
大日本帝国憲法と「御前」会議

第14章 一億総懺悔とは?
東久邇宮稔彦「聖断」内閣
八月一七日午後七時、東久邇宮稔彦総理大臣の「国体護持」ラジオ放送
八月二五日、「皇軍有終の美」の「勅諭」
八月二八日、東久邇宮稔彦総理大臣の一億総懺悔記者会見①―「国体護持」
八月二八日、東久邇宮稔彦総理大臣の一億総懺悔記者会見②―「五箇条の御誓文」

むすび
「聖断」と「玉音」放送の天皇親政
「玉音」放送をめぐる共同幻想
原爆症報道①―残留放射能
原爆症報道②―移動演劇桜隊仲みどりの被曝死
徳川夢声『夢声戦争日記』八月二四日「私は国民的恐怖以上の恐れを直感する」

あとがき
参考文献
人名索引

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[著者]岩田重則(いわた・しげのり
1961年静岡県生まれ。専攻は歴史学/民俗学。1994年早稲田大学大学院文学研究科史学(日本史)専攻博士後期課程、課程修了退学。2006年博士(社会学。慶應義塾大学社会学研究科)。東京学芸大学教授を経て、現在、中央大学総合政策学部教授。著書に『ムラの若者・くにの若者――民俗と国民統合』(未來社、1996)、『戦死者霊魂のゆくえ――戦争と民俗』(吉川弘文館、2003)、『墓の民俗学』(吉川弘文館、2003)、『「お墓」の誕生――死者祭祀の民俗誌』(岩波新書、2006)、『〈いのち〉をめぐる近代史――堕胎から人工妊娠中絶へ』(吉川弘文館、2009)、『宮本常一――逸脱の民俗学者』(河出書房新社、2013)、『天皇墓の政治民俗史』(有志舎、2017)、『日本鎮魂考』(青土社、2018)、『火葬と両墓制の仏教民俗学』(勉誠出版、2018)、『靖国神社論』(青土社、2020)、『赤松啓介――民俗学とマルクス主義と』(有志舎、2021)など。