うたとかたりの人間学

-いのちのバトン-

鵜野祐介 著

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うたとかたりの人間学

定価3,080円(本体2,800円)

発売日2023年9月12日

ISBN978-4-7917-7578-1

「声や手話の文化」のもつ限りない可能性に〈耳〉をすませて――
声や手話によって歌われたものや語られたものが、人と人の、こころとこころをなぜつなぐのか。うたやかたりを〈きく〉という場に身を置き、当事者と並走しながら、生きていくうえで必要不可欠なものについて、そしてそれを「いのちのバトン」としてどう手渡していくかについて、深く考える。

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[目次]

まえがき  

第Ⅰ部 うたとかたりの対人援助学

プロローグ――「ユニバーサルデザイン」としてのうたとかたり

第一章 昔話のふしぎ発見
1 「食わず女房」の魅力
2 「浦島太郎」はなぜめでたいか
3 「天人女房」と愚かな男たち
4 「屁ひり嫁」の三つの結末

第二章 うたに込められた願いと祈り
1 戦争と替え唄
2 『子どもの替え唄と戦争』こぼれ話
3 シリア人留学生の祈り
4 アイヌの〈イタクラマッ(言霊)〉

第三章 かたりの文化としての手話
1 手話とろう教育の歴史
2 奈良県立ろう学校の実践
3 大阪ろう難聴就労支援センター理事長・前田浩さん
4 「ひまわり教室」と手話うた
5 かたりの文化としての手話研究の動向
6 二つの世界をつなぐコーダ
7 手話民話の語り部・半澤啓子さん

第四章 かたる・きく・共に生きる  1
1 『遠野物語』九九話と「悲哀の仕事」
2 〈不条理〉と向き合うためのうたとかたり
3 庄司アイさんと「民話の力」
4 筒井悦子さんの「語りながら考えたこと」

第Ⅱ部 うたとかたりの人間学に向けて

第一章 浦島説話における水界イメージの精神史的考察
序/1 『日本書紀』/2 『丹後国風土記』(逸文)/3 『万葉集』/4 「渋川版御伽草子」『浦島太郎』/5 『祝言浦島台』/6 『日本昔噺』/7 第二期国定教科書『尋常小学国語読本』/おわりに

第二章 東アジアの「天人女房」説話における〈あわい〉イメージ――人間界と天上界をつなぎ、隔てるもの
はじめに/1 「天人女房」の話型とモチーフ/2 古典資料/3〈あわい〉とは何か――空間・時間・存在/4 日本の類話における〈あわい〉のイメージ/5 〈あわい〉の存在としての「子ども」/6 アイヌの類話における〈あわい〉のイメージ/7 韓国の類話における〈あわい〉のイメージ/8 中国の類話における〈あわい〉のイメージ/9 比較考察/結びに代えて――東アジアの人々のコスモロジーと宗教的背景

第三章  マンローのアイヌ研究の思想史的淵源としてのタイラーとワーズワス――〈アニマ〉から〈ラマッ〉へ
1 問題提起――マンローをアイヌ研究に導いたもの/2 マンローの生涯/3 『アイヌの信仰とその儀礼』における〈ラマッ〉/4 タイラーのアニミズム論と〈ラマッ〉の位相/5 マンローがワーズワスに見出した汎神論思想と〈ラマッ〉/6 マンローの初期論考における霊魂イメージ/結び――〈アニマ〉から〈ラマッ〉へ

第四章 手話を用いた語りの研究序論――文化的ダイバーシティ・文化的エコロジーと説話伝承
1 研究の動機/2 研究の目的と本章の位置づけ/3 「文化的ダイバーシティ」「文化的エコロジー」とは何か/4 日本における視覚的メディアを伴う語りの文化の歴史/5 手話とろう教育の歴史/6 高橋潔の手話による語りの活動/7 奈良県立ろう学校の手話を用いた絵本読み聞かせの活動/8 結びに代えて―昔話を題材に用いることの意義

第五章 不条理と向き合う地蔵説話の伝承――「笠地蔵」「みちびき地蔵」「地蔵の予告」
はじめに/1 物語の起源/2 ヒュームの〈神〉概念と一九世紀神話学者・人類学者の神話発生説/3 ブルーメンベルクにおける物語の根源的な意味/4 地蔵説話の成立と展開/5 「笠地蔵」における地蔵の表象/6 永浦誠喜の語る「笠の観音様」/7 小野和子の解釈/8 気仙沼大島の伝説「みちびき地蔵」/9 「みちびき地蔵」における地蔵の表象/10 「地蔵の予告」における地蔵の表象/おわりに

第六章 民話を〈語り‐聞く〉ことと災害・厄災レジリエンス
はじめに/1 文化的多様性と語り/2 「やまもと民話の会」におけるレジリエンスの形成/3 文化的多様性の承認と非当事者性の自覚/4 『16歳の語り部』/5 語りの場における悲しみの分有/6 理不尽さと向き合う/7 グリーフワークとしての「語り」/おわりに

第七章 五十嵐七重の語りを聴く――小野和子の民話採訪と「未来に向けた人類学」
はじめに/1 語り手・五十嵐七重のプロフィール/2 聞き手・小野和子のプロフィール/3 「奥会津の伝承2007」の成立過程と「聴く」こと/4「DVD2020」の特徴/5 小野における〈きく〉ことの意味――『あいたくて ききたくて 旅にでる』を読む/6 「聞く」と「聴く」/7 インゴルドの提唱する人類学と「聴く」こと/おわりに――未来に向けた〈うたとかたりの人類学〉を目指して

第八章 『遠野物語』の人間学へ―「きくこと」をめぐる断想
1 『遠野物語』の「きき手」は誰か?/2 「願わくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ」/3 香りの声をきく植物や昆虫――上橋菜穂子『香君』のメッセージ/4 『原本 遠野物語』にみる「きくこと」―九九話の場合/5 佐々木喜善が「ききとった」九九話(福二の話)/6 「かたり手」としての福二、「きき手」としての喜善/7 遠野の語り部・大平悦子が「ききとった」九九話/8 アレクシエービッチにおける「対話すること」と「愛」/9 おわりに

あとがき
初出一覧

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[著者]鵜野祐介(うの・ゆうすけ
1961年岡山県生まれ、立命館大学文学部教授。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。2004年英国エディンバラ大学にて博士号(Ph.D、人文学)取得。専門は伝承児童文学の教育人類学的研究。日本、韓国、中国、英国スコットランドを主なフィールドとして、子ども期の伝承文化(遊び・子守唄・わらべうた・民間説話など)や児童文学・児童文化が人格形成に及ぼす影響について研究。アジア民間説話学会日本支部代表、子守唄・わらべうた学会代表、「うたとかたりのネットワーク(うたかたネット)」を主宰し、うたやかたりの実践・普及活動のネットワーク作りを進める。主な著書に『生き生きごんぼ わらべうたの教育人類学』(久山社、2000年)、『伝承児童文学と子どものコスモロジー 〈あわい〉との出会いと別れ』(昭和堂、2009年)、『子守唄の原像』(久山社、2009年)、『昔話の人間学 いのちとたましいの伝え方』(ナカニシヤ出版、2015年)、『日中韓の昔話 共通話型30選』(みやび出版、2016年)、『センス・オブ・ワンダーといのちのレッスン』(港の人、2020年)他、訳書にノラ&ウィリアム・モンゴメリー編『スコットランド民話集 世界の果ての井戸』(朝日出版社、2013年)。