定価2,860円(本体2,600円)
発売日2025年4月28日
ISBN978-4-7917-7711-2
「日本の現代物理学の父」の苦悩と願い
ボーアに学び、日本における素粒子物理学の礎を築くとともに、湯川秀樹に影響を与え、朝永振一郎や坂田昌一といった世界的な研究者をも育成した偉大なる物理学者。戦中の彼の姿は原爆開発のための「ニ号研究」の中心にあった。しかしあの日、広島と長崎を実際に目にし、仁科の歩みは大きく変わっていった。彼は戦後、何を目指したのか。戦後80年のいま、ひとりの科学者の足跡から科学と平和を考える、必読の評伝ノンフィクション。
[目次]
プロローグ アメリカの疑念
原子爆弾調査団
尋問すべき日本人
ファーマン少佐とモリソン博士
仁科博士に関する調査報告
第一章 欧州へ留学
仁科芳雄の生い立ち
迷った末の進路選択
量子論の誕生
憧れの教授の下へ
クライン=仁科の公式
第二章 現代の錬金術
ハイゼンベルクとディラックの来日
仁科の下に参集した湯川と朝永
最年少の主任研究員
世界で二番目のサイクロトロン
第三章 核分裂から原子爆弾へ
核分裂の発見
ウラン核分裂生成物
五年越しの大サイクロトロン
サイクロトロンにノーベル賞
ウラン諮問委員会
第四章 日本の原子爆弾計画
日本の原子爆弾計画の原点
真珠湾攻撃と新兵器
火薬一万八〇〇〇トンに相当
仁科の名を冠した「ニ号研究」
届かなかったドイツのウラン
第五章 マンハッタン計画
シラードとアインシュタイン
フェルミとオッペンハイマー
暫定委員会とフランクレポート
トルーマンの一〇〇万人神話
第六章 原子爆弾の威力
一九四五年八月六日の広島
米国大統領のラジオ声明
玉木への置き手紙
火薬「二万トン」と「一万八〇〇〇トン」
「残念ながら原子爆弾に間違いありません」
核開発から核廃絶へ
第七章 原子爆弾調査団の来日
モリソンによる仁科への尋問
テニアン島から届いた手紙
日本の原子爆弾計画最終報告
予算確保と兵役逃れ
第八章 サイクロトロン破壊事件
コンプトン調査団の勧告
ワシントンからの指令電報
仁科と米国科学者の抗議
アメリカ軍上層部の対応
被爆国から原発大国へ
第九章 仁科の死
理研の解体と再生
日本人初のノーベル賞
湯川の中間子の証明
仁科の死と病理解剖
第十章 衣鉢を継ぐ者
戦争の放棄と核の廃絶
ソ連の核保有と核の国際管理
ラッセル=アインシュタイン宣言
湯川・朝永宣言
核の軍事利用と平和利用
ウランとプルトニウム
エピローグ 命とひきかえに
広島と長崎の被爆の実相
爆風と熱線と放射線
原爆映画の監修
押収された原爆映画
被害者と加害者の立場を越えて
あとがき 原爆開発と世界平和のあいだで
仁科芳雄年譜
参考ならびに引用文献
[著者]上山明博(うえやま・あきひろ)
1955年10月8日岐阜県生まれ、ノンフィクション作家・小説家(日本科学史学会正会員、日本文藝家協会正会員、脱原発社会をめざす文学者の会幹事)。1999年 特許庁産業財産権教育用副読本策定普及委員会委員、2004年 同委員会オブザーバーなどを務める一方、文学と科学の融合をめざし、徹底した文献収集と関係者への取材にもとづく執筆活動を展開。主な著書に、ノンフィクションとして『プロパテント・ウォーズ―─国際特許戦争の舞台裏』文春新書、2000年)、『発明立国ニッポンの肖像』(文春新書、2004年)、『ニッポン天才伝―─知られざる発明・発見の父たち』(朝日選書、2007年)、『技術者という生き方―─発見!しごと偉人伝』(ぺりかん社、2012年)、『地震学をつくった男・大森房吉――幻の地震予知と関東大震災の真実』(青土社、2018年)、『北里柴三郎―─感染症と闘いつづけた男』(青土社、2021年)、『牧野富太郎――花と恋して九〇年』(青土社、2023年)、また小説として『白いツツジ――「乾電池王」屋井先蔵の生涯』(PHP研究所、2009年)、『「うま味」を発見した男―─小説・池田菊苗』(PHP研究所、2011年)、『関東大震災を予知した二人の男―─大森房吉と今村明恒』(産経新聞出版、2013年)などがある。公式サイトhttps://aueyama.wixsite.com/home/