定価1,980円(本体予価1,800円)
発売日2025年6月26日
ISBN978-4-7917-0463-7
生誕120年
成瀬巳喜男は日本映画を戦前から戦後に橋渡しした作家である。それは松竹からP.C.L.、そして東宝と渡り歩いた職人的なキャリアによるものではなく、あるいは起用された俳優たちの輝かしいばかりの顔ぶれによるものでもない、いわばそれぞれの点と成瀬巳喜男の距離がつなぎとめるもののありかたである。成瀬巳喜男を観ることが映画の現在地にとっていかに喫緊の課題であるのか、生誕120年を機に振り返ってみるに如くはない。批評による誌上レトロスペクティブ。
特集*成瀬巳喜男――『めし』『浮雲』『流れる』…生誕一二〇年
❖対談採録
静かな人 / 岡田茉莉子 蓮實重彦
❖成瀬巳喜男再見
成瀬巳喜男のスタイルの発展とその核――実験性・日常性・職人気質を中心に / スザンネ・シェアマン
禁じられたショット――成瀬巳喜男との隔てられた距離 / 筒井武文
『浮雲』をなかったことにせずに、いかにして成瀬巳喜男を語るか――港のシーンにおける奇妙なデクパージュと俯瞰のイメージをめぐるささやかな考察 / 大久保清朗
成瀬巳喜男と一九六〇年代――クロースアップとメロドラマ女優 / 北村匡平
❖映画の交情
肉体の軋――成瀬巳喜男監督『山の音』(一九五四年)における戦後的なるもの / 紙屋牧子
映画のからだと語り――『あらくれ』試論 / 木下千花
別れる映画、出会う映画――成瀬巳喜男と千葉泰樹 / 鷲谷花
ふくらまない男たちと、湿った記憶のあいだで――成瀬巳喜男作品を「誤読」する / 久保豊
戦前の成瀬巳喜男と構築された女性観客 / 内山翔太
❖邂逅と試論
成瀬巳喜男と水木洋子 / 荒木裕子
記録映画『成瀬巳喜男 記憶の現場』 / 石田朝也
❖技芸としての映画
軟調のコントラスト――成瀬巳喜男と陰翳の美学 / 宮尾大輔
成瀬巳喜男の初期トーキーの音楽を聴く / 柴田康太郎
お妻の視線――映画『桃中軒雲右衛門』(一九三六年)試論 / 羽鳥隆英
ひとすじの道といろいろなもの――成瀬巳喜男の芸道物 / 藤田奈比古
❖外部に向かって
安二郎と巳喜男の車掌さんたち / マチュー・カペル
成瀬巳喜男の「日本的なもの」 / 具慧原
P.C.L.映画時代の成瀬巳喜男 / 佐藤利明
無の空間のきらめき――成瀬巳喜男と吉田喜重 / 高部遼
❖来るべき成瀬巳喜男
成瀬巳喜男主要監督作品解題 / 川原琉暉
❖忘れられぬ人々*45
故旧哀傷・林義郎・林章 / 中村稔
❖詩
帰る / 雪柳あうこ
❖今月の作品
鈴野蜜夏・三好由美子・ながさきふみ・梅津郁子・牧村裕 / 選=井坂洋子
❖われ発見せり
ストリップ研究者は語ることができるか / 泉沙織
表紙・目次・扉=北岡誠吾
表紙写真=朝日新聞社/一九六一年六月二八日、東京・世田谷区成城町の自宅で