定価3,520円(本体3,200円)
発売日2025年7月26日
ISBN978-4-7917-7729-7
トウェイン、フォークナー、ボールドウィンから、モリスン、マッカラーズ、ホワイトヘッドまで――
政治がそれをいかに忘却しようとも、文化や個人のあり方のうちに、言い換えれば、アメリカン・デモクラシーの視界のきわで熾火のように熱をたくわえ、人種は潜伏しているのである。人種を持続的に思考するには、その様々なる潜伏の場を、まず探りあてる必要がある。――序章より
[目次]
序章 人種、あるいはアメリカのエコロジー
第Ⅰ部 黒人が生まれ出づる〈生の論理〉
第一章 母の消去
一 自由人の楽園、奴隷の地獄
二 奴隷の母のトポロジー
三 人種に書かせた物語
第二章 「黒い果実」としての肉体
一 黒人の在り処
二 サウスランド再訪
三 剝き出しのメロドラマ
四 めぐりあう南部
第三章 生を肯定する理由
一 反・反出生と想像力
二 奴隷制下の自律性と性的充足
三 性の正視と愛する力
四 サハラの時間、獄としての性
第Ⅱ部 生まれ出たものが〈住む条件〉
第四章 アメリカの礎
一 一六一九マインドと文学批評
二 先住民と荒野の余剰
三 「我が国の事情」と「人間の枠組み」
四 謎の遺産と消したい過去
五 環大西洋奴隷貿易と帝国の文手箱
第五章 奴隷制廃止の情動
一 扇情のアダプテーション
二 「鉄道」以前のニューポートにて
三 思考と感情/情動調律
第六章 耐え忍ぶ者の透視図
一 解放への長い道のり
二 闘争の意味を問う
三 依存の詩学
四 絆を断ち切らない理由
第Ⅲ部 生を遷移させる〈人種=生態〉
第七章 生態実験のような人生
一 南部小説と不詳の「南部」
二 記憶が信じたカラーライン
三 灰色の平和、無数の声
第八章 「白い屑」に映された暗黒
一 ハーストンが歌った唄
二 南部の復興とクラッカーの上昇
三 クラッカーの上昇+他者の抑圧=アメリカの膨張
第九章 安い命がつながるところ
一 驚異的な人間性
二 抵当に入った心
三 人の命が安い風土
終章 アメリカン・デモクラシーのエコロジー
あとがき
初出一覧
引用文献一覧
[著者]新田啓子(にった・けいこ)
東京都生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校大学院博士課程修了(Ph. D.)。立教大学文学部英米文学専修教授。専攻はアメリカ文学、文化理論。著書に『アメリカ文学のカルトグラフィ――批評による認知地図の試み』(研究社、アメリカ学会・清水博賞)、編著書に『ジェンダー研究の現在――性という多面体』(立教大学出版会)、河野貴代美との共編著に竹村和子『彼女は何を視ているのか――映像表象と欲望の深層』(作品社)、訳書にトリーシャ・ローズ『ブラック・ノイズ』(みすず書房)。ほか、パトリース・カーン゠カラーズ+アーシャ・バンデリ著/ワゴナー理恵子訳『ブラック・ライヴズ・マター回想録――テロリストと呼ばれて』(青土社)解説、キエセ・レイモン著/山田文訳『ヘヴィ――あるアメリカ人の回想録』(里山社)解説、竹村和子『愛について――アイデンティティと欲望の政治学』(岩波現代文庫)解説など多数。