定価4,840円(本体4,400円)
発売日2025年10月27日
ISBN978-4-7917-7743-3
マキノ正博が戦中に発表した「明朗」な作品群、長谷川一夫と古川ロッパの共演作、占領期に生まれた「パンパン映画」と「母もの映画」——。同時代の文脈のなかに差し戻すことで、その映画がもつ隠された政治性・歴史性を鋭く浮かび上がらせるスリリングな映画論。
その明るさが覆い隠しているものとは何か

[目次]
はじめに——「闇」をまなざす
第Ⅰ部 隠された欲望
第一章 日清・日露戦争後の大衆文化におけるサディズム/マゾヒズムの表象
——継子いじめ譚『五郎正宗孝子伝』(一九一五年)を起点に
第二章 戦時下のホモソーシャル
——長谷川一夫と古川ロッパの、「男」の生きる道
第三章 占領下のホモソーシャル
——長谷川一夫と古川ロッパの、「傷」だらけの男
第Ⅱ部 「闇」の女たち
第四章 一九四八年の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)
——占領下の日本映画における「闇」の女たちの表象
第五章 「聖」なる女たち
——「母もの映画」に刻まれた占領の影
第六章 占領期の田中絹代と小津安二郎
——『風の中の牝雞』と『宗方姉妹』の描く「暴力」の意味を捉え返す
第七章 ポスト占領期における男性・女性の闘争
——『やっさもっさ』(一九五三年)と「講和」
第Ⅲ部 明朗という「闇」
第八章 出征兵士を送る妻の「涙」の表象をめぐって
——『ハナ子さん』(一九四三年、マキノ正博)の多相性
第九章 なぜ「明朗」なのか
——一九三九年の映画『鴛鴦歌合戦』と『春秋一刀流』の連続性/非連続性
第十章 エノケンの身体表象にみる相克
——『孫悟空』(一九四〇年)における(反)全体主義
第Ⅳ部 歴史の「闇」
第十一章 冤罪事件へのシンパシー
——マキノ雅弘監督『次郎長三国志 第九部 荒神山』(一九五四年)の異様さ
第十二章 時代劇映画の一九六八年
——『祇園祭』(山内鉄也監督)をめぐる論争と伊藤大輔のイデオロギー
あとがき/初出一覧/注/参考文献/図版クレジット/映画題名索引/人名索引
[著者]紙屋牧子(かみや・まきこ)
日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程単位取得満期退学。現在、玉川大学・武蔵野美術大学・日本大学非常勤講師、早稲田大学演劇博物館招聘研究員。専門は映画学、表象文化論。主として貫戦期の日本映画の表象について研究しており、近年は映像メディアにおける近代天皇(制)の表象分析もおこなう。主な論文に「明治末期から大正初期の大衆文化におけるサディズム/マゾヒズムの間テクスト的考察──『五郎正宗孝子伝』(1915年)を起点として」(『映像学』第110号、2023年)、「占領期「パンパン映画」のポリティックス──一九四八年の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」(『占領下の映画——解放と検閲(日本映画史叢書11)』森話社、2009年)など。