定価2,200円(本体2,000円)
発売日2026年10月27日
ISBN978-4-7917-0483-5
書物の来歴とその古層
写本の由来に遡行し、その伝播を綴りなおすこと、書物を書物に帰す、いったいそのように写本のそれぞれにはドキュメントが仮託されている。一冊の伝来に複本を重ね合わせる文献学の砦としての写本と、美麗絢爛な手工品としての写本の交差する場所に、書物の元来が新たに立ち現れる。それをこそ来たるべき書物の可能性とみるか否か、写本とはもはや歴史の遺産ではない。未来に作られるべきものである。西洋中世写本にとどらまらない、写本の人類史。

特集*写本の世界――『ギルガメシュ叙事詩』、『ティマイオス』から『アヴェスター』、『山家要略記』…書き継がれしものの五〇〇〇年史
❖鼎談
写本にふれる――文字・手・声 / アダム・タカハシ×加藤磨珠枝×山本貴光
❖再発見される写本
写本のマテリアリティと重層性――時禱書写本のその後をめぐって / 松田隆美
デジタル・ヒューマニティーズにおいて写本はどのように扱われてきたか――画像の相互運用、文字の自動翻刻、テクストの構造化 / 宮川創
貝葉からデータへ――写本を読むこと、残すこと / 加藤隆宏
西夏文字写本とフォントを巡って / 荒川慎太郎
トンブクトゥ写本が表象する歴史と矜持 / 伊東未来
❖写本の人類史
土に刻まれた知――古代メソポタミアの楔形文字粘土板写本 / 柴田大輔
受け継がれたもの / 河島思朗
❖著者・写字生・註解者・編纂者
ゾロアスター教写本の研究史と現状 / 青木健
ユダヤ神秘主義の写本と印刷をめぐる考察 / 山本伸一
物語の向こう側――イスラーム写本絵画と「世界」の記録 / 林則仁
越境する写本――『アレクサンドリア集成』を読んだのは誰か / 澤裕章
中世の魔術書にみる写本の魔力――『ピカトリクス』『ホノリウスの誓いの書』『アルス・ノトリア』から〈本の魔術〉へ / 田中千惠子
❖羊皮紙をめくる
ギリシア哲学の写本をめぐって / 納富信留
理想の羊皮紙 / 八木健治
❖図版構成
写本のミクロコスモス――メトロポリタン美術館より
❖マルジナリアによって
聖書の「アップデート」――羊皮紙と写本が語る「神の言葉」の軌跡 / 長谷川修一
写本の/と権威――「ヨハネ句」(「ヨハネの手紙一」五・七)をめぐって / 伊藤博明
写本の哲学的伝統 / 阿部晃平
写本と政治――いかにして一〇〇〇年前の書き込みがガンダースハイム紛争と結びつくか / 柴田隆功
『神曲』が「古典」ではなかった頃――『神曲』写本の誕生過程を考える / 渡辺元裕
❖新しい写本のエチュード
アイスランドの「エッダ」訪問記 / 松本涼
占星術写本としての(?)ユングの『赤の書』 / 鏡リュウジ
❖筐底から
美術品になれない朱墨写本――モンゴル時代の漢籍をめぐって / 宮紀子
『ティムール史』を読む東洋学者たち / 稲垣健太郎
写本に遺されたもの――モノの記憶とひとの記憶 / 小川剛生
写本と霊性――中世の信仰の場において書物はいかに生成したか / 小川豊生
怪談と検地――『備陽六郡志』にみる写本地誌の世界 / 南郷晃子
❖いつか読まれるために
写本の大宇宙をめぐるオデュッセイアめくブックガイド / 桑木野幸司
❖忘れられぬ人々*61
故旧哀傷・中村志満 / 中村稔
❖詩
鬼ごっこ / 高野泰地
❖今月の作品
蓮野健二・今村謙貴・祁答院刻・研二・こうちちか・階音・西のの / 選=高橋順子
❖われ発見せり
平凡の価値を説明できない / 下司悠太
表紙・目次・扉=北岡誠吾
表紙写真=ホメロス『オデュッセイア』断片(前二八五―二五〇年頃/プトレマイオス朝エジプト/パピルス/The Metropolitan Museum of Art, 09.182.50)